自律神経について

 自律神経とは、心臓を動かしたり汗をかいたり、自分ではコントロールできない自動的に働く神経のことです。自律神経は活動する神経といわれる『交感神経』と、休む神経といわれる『副交感神経』の二つに分類され、必要に応じて自動的に切りかわって働くようになっています。
自律神経には様々な調整機能があります。
・ 精神の調整…悲しいと涙が出る、驚くと心臓がドキドキするなど、精神的な変化から身体の反応としてあらわす働き
・神経の調整…外部の気温が上がっても体温が一定に保たれるなど、外部から刺激を受けても身体を一定の状態に調整する(=ホメオスタシス)
・内分泌の調整…ホルモン分泌とも密接に関係。女性に自律神経失調症が多くみられるのは排卵・月経・妊娠・更年期等の性周期がホルモンと深く関係しているため
・免疫の調整…体内に細菌やウイルスが侵入すると抵抗力をつけたり、発熱した場合に熱を下げようするなど、病気の予防や治癒のための働き

自律神経失調症とは

 不規則な生活や習慣などにより、身体を働かせる自律神経のバランスが乱れるためにおこる様々な身体の不調のことです。内臓や器官の病変によるものではないので病院で検査をしても「異常なし」と言われます。多くの方が勘違いされていますが、自律神経失調症は病名ではなく、症状を現す名称です。
 自律神経のバランスが乱れると様々な不調が現れ、『自律神経失調症』の症状としては、体の一部が痛くなったり具合が悪くなったり精神的に落ち込んだりと人によって様々で、いくつか重なって症状があらわれたり症状が出たり消えたりする場合もあります。それは、自律神経系の様々な種類の自覚症状なので症状のあらわれ方が非常に不安定なためです。また、遺伝体質、性格、ストレスの感受性により症状の出方も様々であると言われ、治療は心身両面から柔軟に行うことが必要です。

自律神経失調症の原因

 症状が一人一人違うように、その原因もまた一人一人違い、自律神経のバランスが乱れるのには、いろいろな原因が複雑にからみあっていると言われています。代表的なものに以下のものがあります。
・生活のリズムの乱れ…夜更かし、夜型人間、夜間勤務や、子供の頃からの不規則な生活習慣など、人体のリズムを無視した社会環境やライフスタイル
・過度なストレス…仕事などの社会的ストレス、人間関係、精神的ストレス、環境の変化など、過剰なストレス
・ストレスに弱い体質…子供の頃からすぐ吐く、下痢しやすい、自家中毒、環境がかわると眠れないなど、生まれつき自律神経が過敏な人もいる。また思春期や更年期、身体が弱っているときは自律神経のバランスが乱れやすいです。
・ストレスに弱い性格…ノーと言えない、感情処理が下手、気持ちの切り替えができない、人の評価を気にしすぎる、人と信頼関係を結ぶのが苦手、依存心が強いなど、ストレスへの抵抗力が弱い傾向のある人もみえます
・環境の変化…現代の生活は適応能力が衰えやすく、社会環境の変化、人間関係や仕事などの環境の変化などへの不適応や過剰適応が増えていると思われます
・女性ホルモンの影響…女性は一生を通じてホルモンのリズムが変化しつづけ、この変化が自律神経の働きに影響を与えます

自律神経失調症の4つのタイプ

・本態性型自律神経失調症
要因:生まれつき自律神経の働きが乱れやすい
特長など:低血圧、虚弱体質、体力に自信がない人に多い
 
・神経症型自律神経失調症
要因:心理的なことから
特徴など:自分の身体の不調に敏感な人がなりやすい

・心身症型自律神経失調症
要因:感情や疲労などの日常生活のストレスを無理に抑えること
特徴など:約半数がこのタイプ。あらわれる症状やその重さが様々

・抑うつ型自律神経失調症
要因:ストレスの慢性的な蓄積などによるうつ反応
特徴など:抑うつ気分が身体の症状に隠れて発見されないと『うつ』に対する適切な治療が行われないこともある。

自律神経失調症の治療方法

 症状やタイプなどにより、身体と心の両面に働きかける治療、生活環境を整えるなどのことを行う必要があります。体質や性格、ライフスタイルの歪みにも注目して見直し改善することが必要でしょう。

 ・自律訓練法などによるセルフコントロール
 ・薬物療法
 ・カウンセリングなどの心理療法
 ・指圧やマッサージ、整体、鍼灸、ストレッチなどの理学療法
 ・音楽療法やアロマテラピーなど五感に働きかける治療法
 ・自己管理によるライフスタイルの見直し(生活のリズム、食事、睡眠、運動、心にゆとりを持つ、ストレス耐性の強化、感情処理等)

参考文献
 「自律神経失調症を治す本」 河野友信 監修 ナツメ社
 「自分で治す女性の自律神経失調症」 大森啓吉 監修 主婦と生活社

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就労継続支援事業について

仕事をしてみたいけれど、障害や傷病から一般就労をするのには不安がある方の為に、事業所へ通所し、その中で就労に必要な知識や能力を伸ばす訓練を行う事業があることをご存知でしょうか。就労継続支援事業、というその制度は雇用契約を結び利用するA型と、雇用契約を結ばず利用するB型の二種類があります。

<A型>…原則として最低賃金を保証する仕組みの『雇用型』
【対象:通常の事業所で雇用されることは困難だが、雇用契約に基づく就労が可能な方
    (利用開始時65歳未満の方)】
(例:企業等を離職した就労経験のある方で、現に雇用関係がない方や、養護学校等を卒業し就職活動を行ったが、企業の雇用に結びつかなかった方等)

A型は、一般企業と雇用契約を結んだ事業所ですので、賃金体系や労働法規などは普通の会社と変わりありません。通所により、一般就労に必要な知識や能力が高まった方について、一般就労への移行に向けて支援を行います。

<B型>…契約を結ばず、利用者が比較的自由に働ける『非雇用型』
【対象:通常の事業所で雇用されることが困難で、雇用契約に基づく就労も困難な方】
(例:企業やA型での就労経験がある方で、年齢や体力面で雇用が困難となった方や、就労移行支援事業(※)を利用したが、企業等での雇用に結びつかなかった方等)

B型は、まず個別の支援計画をたて、何を目標にするのかということを明確にした上で作業を通じ社会復帰を目指します。その中でA型と同様に一般就労に必要な知識や能力が高まった方について、一般就労への移行にむけて支援を行います。

※就労移行支援事業
一般就労等への移行にむけて、事業所内や企業における作業や実習、適正にあった職場探しを行う等、就労後の職場定着のための支援事業。通所サービスが原則で、個別にたてた支援計画の進捗状況に応じ、職場訪問等によるサービスを組み合わせた支援を行います。利用者ごとに標準期間(24ヶ月)内での利用が可能で、企業への就労を希望する方や技術を習得し在宅で就労・起業を希望する方等が対象です。

名古屋市内にも、就労継続支援を行っている事業所はもちろんあり、A型B型どちらも多くの方が利用されています。まずは見学だけでもと足を運ばれる方もみえますので、詳しく聞きたいという方や少し気になるという方はお気軽に職員に相談してください。

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院長より

 2年に一度の診療報酬制度の改定がこの4月に行われました。相も変わらず4月から始まるのに大筋が決まるのが2月末、細かな点数設定が決まるのが3月はじめ、さらに運用詳細は4月になってから示され、あるいは変更されるというお粗末な状況でした。医療は消費税非課税ということになっていますが、医薬品や医療機器等の仕入れや購入には消費税がかかっており、その分が保険点数に上乗せされていることはご存知でしょうか。非課税のはずなのに定価に含まれていることになるのです。この矛盾を訴えてもなかなか制度変更にならず、今回も同様の方法で消費税増税への対応がなされました。来年、秋に予定されているさらなる増税の時にはどうなるのでしょう。きちんとした対応、つまりゼロ税率あるいは軽減税率として矛盾を解消して欲しいものです。
 また、一昨年にも書いた入院中の患者さんの診療に関わる制度の改悪は今回も変更してもらえませんでした。入院中に他医療機関を受診する際には必ず入院中の医療機関の主治医にそれを伝え、情報提供書を発行してもらうことを忘れないで下さい。
 日本の科学技術の信頼を損ないかねない事件が散見されます。一つはご存知STAP細胞の件です。何が真実かはまだ見えてきませんが、解明させるはずのこの分野の第一人者と言われている先生の論文にも問題が生じているようで、泥沼化しているようです。医療の分野でも血圧を下げる薬の論文にデータ改ざんの疑いがあるようです。発売前の臨床研究のデータの改ざんであり、また製薬会社の社員がそれに関係していた疑いが持たれています。その薬の信頼性はもちろん、そういうことが行える状況であったということで、すべての薬の信頼性にも関わってきてしまいます。科学者の1人として今の状況を憂い、患者さんのためになることのみを行い、ためにならないことは行わないという医療の原則を改めて思い起こしています。

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記憶

記憶とは
 記憶とは、過去の経験を保持し、後にそれを再現して利用する機能であり、符号化、貯蔵、検索の3段階に分けることが出来ます。人間は、声や文字などの情報を、様々な意味づけをしながら符号に変換し、脳の記憶を司る部位に記憶して貯蔵していきます。そしてその貯蔵された情報を、必要な時に検索して思い出します。この一連の作業が記憶のメカニズムと言われています。

短期記憶と長期記憶
 人間の記憶は、その保持時間の長さによって「短期記憶」と「長期記憶」に分けることが出来ます。短期記憶とは、短期間保持される記憶であり、約20秒間保持することが出来ると言われています。これに対し、長期記憶とは、長期間保持される記憶であり、忘却しない限り、死ぬまで保持されると言われています。例えば、電話帳で番号を調べて電話をかけた後、もう一度番号を思い出そうとしてもたぶん思い出せないでしょう。このように、番号を入力し終わるまでの短時間だけ記憶しているのが、短期記憶と呼ばれるものです。これに対して、自宅の電話番号など自分にとって大切な番号は、必要に応じていつでも思い出すことが出来ます。こういった、検索可能なものが長期記憶と呼ばれるものです。人間は、日々取り入れられる膨大な情報のうち、大切だと思う情報だけ長期記憶として貯蔵しておき、それ以外のものは短期記憶として忘却されてしまいます。
 しかし、いくら長期記憶となっても忘却されてしまうことがあります。長期記憶の忘却の原因については、減衰説と干渉説、さらに検索失敗説が存在します。減衰説とは、時間の経過とともに記憶が失われていくという説で、干渉説とは、ある記憶が他の記憶と干渉を起こすことによって記憶が失われていくという説です。検索失敗説とは、思い出せないことというのは、記憶された情報自体が消失しているのではなく、適切な検索手がかりが見つからないため、記憶内の情報にアクセスできないことによるという説です。

長期記憶の種類
 長期記憶には、「宣言的記憶」と「手続き的記憶」があるとされています。
 宣言的記憶とは、言葉で表現できる記憶のことで、教科書を使った学習や知識などが当てはまります。宣言的記憶にはさらに2種類あるとされており、「エピソード記憶」と「意味記憶」があります。エピソード記憶とは、個人的な経験に関する情報の記憶で、例えば「今週の月曜日にハンバーグを食べた」などという記憶のことです。時間や場所、その時の感情などが含まれます。これに対して意味記憶とは、言葉の意味についての記憶であり、例えば「ハンバーグとはお肉を固めて焼いたものである」と一般的な知識として知っていることです。
 一方、手続き的記憶とは、物ごとを行う時の手続きに対する記憶のことで、言葉で説明できないことが多く、意識しなくとも使うことができます。いわゆる「体が覚えている」状態です。例えば自転車の乗り方や、学期の演奏方法などが当てはまります。

 このように、一概に記憶と言っても沢山の種類があります。記憶力を高めるためには、長期記憶にきちんとした形で保存することが重要です。私達の脳の中では、睡眠中に記憶した内容が再構成されると言われています。したがって、物事をはっきりといつまでも覚えておくためには、寝る前に記憶したい内容を整理して、反復して思い出すことがもっとも重要な記憶力アップのコツだと言えるでしょう。

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