2002年1月心理室より

心理室より PTSD 2   
 今回も前回に引き続き心的外傷後ストレス障害(PTSD)についてお話しします。
 トラウマ体験が原因で発病すると言われるこの病気は、単に不安であるとか鬱であるというものとは異なり、一連の特有の症状があります。
 PTSDについて公式なマニュアルでは次のように述べています。この疾患の基本像は、通常の人間の体験(単なる死別や慢性疾患、ビジネスの失敗、婚姻上の摩擦のような通常的な体験)からほど遠い、心理的に抑うつされるような出来事に引き続いて、特徴的な症状がある。これらの症状を生み出すストレッサー(ストレスの原因)はほとんど全ての人に著しい苦痛を与えるものであり、それを体験すると通常強烈な不安や恐怖、無力感が生ずる。
    
●PTSD特有の症状●
【トラウマを何度も侵入的に再体験する】
PTSDでもっとも顕著な症状は、本人は思い出したくないのに何度もトラウマを再体験することです。
・“過去のことだし、何度考えてもどうにもならない”と分かっていても、しつこく何度も何度も繰り返し意識にのぼり、考えたくないのに当時の出来事を思い出してしまう  →それが、日中だけではなく寝ているときも思い出され悪夢となります
・トラウマを思い出す刺激に触れると、それが今まさに起こっているような錯覚を起こし、全てが洪水のように押し寄せてくる
・かつて経験した、トラウマとなった出来事の記念日、例えば終戦記念日など、そのトラウマを象徴する、あるいは似たような出来事に遭遇すると強烈な心理的苦痛を感じる

【トラウマを思い起こさせる刺激を避ける】
トラウマ体験をする前にはなかった反応性麻痺(無感覚)が見られます。
・考え方や記憶、意識状態だけではなく明確な目標や行動も狭めてしまい、安全を作り出そうとし、恐怖をコントロールするためにその生活さえも狭めてしまう
・トラウマを努めて思い出さないようにその刺激から遠ざかる(例えば、事故に遭った人がその事故現場に行かないように迂回しようと努める)
・トラウマ体験の重要な局面を思い出すことができない(例えば、阪神淡路大震災の被害者がどうやって崩壊した家屋から避難所にたどり着いたか思い出せない)
・学校や会社という社会的な活動や人間関係から引きこもったり、将来プランが無くなったりする
・喜怒哀楽といった感情が乏しくなる
・みんなとは違う世界に住んでいるような感じがあり、疎遠感や孤立感がある

【自律神経の興奮や過覚醒の症状がある】
 “逃げるか戦うか”といったような危険な状況にさらされている場合、自分の身を守るため神経を興奮させておく必要があり、危険時には適応的なこの状態が継続し、安全になったときは、それが興奮や過覚醒という不適応な状態になってしまいます。(例えば、戦時中の兵士が再来する危険に備えて、周囲の刺激に対し敏感になる。それは危険な状況下にあるときは適応的ではあるが、安心できる生活に戻ったときには不眠などの不適応な状態になる)
・小さな音にも過剰にビックリする
・物事に集中できない
・眠れなくなったり、寝付きが悪くなったり、連続して眠れなくなったりする

 ベトナム戦争で極限を超える悲惨な体験をした兵隊の精神的後遺症が問題になり、トラウマという言葉が、戦場体験のことを指すものとして使われるようになりました。後に、同じような症状が性犯罪の被害者や自然災害の被災者にも現れることが分かり、PTSDという病名が作られました。最近では心の傷やストレスをもトラウマとよぶ傾向があります。
 PTSDの原因は心の領域、精神的な領域の出来事ですが、その結果として脳内にはっきりとした変化が現れることが分かってきています。トラウマとなる体験を経験した人達には、体験したことの話に耳を傾け、実際的なサポートを提供し、不安を和らげてくれる他者が必要となります。
 

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2001年11月院長より

院長より   
今は日中と夜間の寒暖の差が大きく、風邪を引きやすい時期ですので、十分注意してください。アメリカでの同時多発テロ事件、炭疽菌騒動や狂牛病など何かと物騒な出来事が続いており、この影響が経済にも及び、失業者が増え、さらに国民医療費を抑えるために患者さんの負担を増やすことも検討されるなど、暗い話ばかりが目に付きます。
 
そんな中一つのいいニュースが飛び込んでまいりました。予防接種法の改定により65歳以上の方のインフルエンザワクチン接種が公費適応されるというものです。本当ならすでに可決成立しているはずの法案ですが、テロ関連の審議のため成立が遅れてしまいました。しかし10月末にようやく国会を通過しましたので、市町村毎に検討、実施されることとなりました。名古屋市の場合は12月10日頃から実施する予定になっているそうです。ただしワクチンを接種してから、その効果が出るまでには少し時間がかかりますから、12月になってからの接種ではインフルエンザの流行が早いと間に合わなくなる可能性があります。ですから今年は安全に少し余分にお金がかかっても早めに接種しておくか、安くなってから接種するか判断に迷う年となってしまいましたが、情報が入り次第、適時お伝えしますので皆様方で適切なご判断をお願いいたします。
 
また将来の医療制度についても現在検討されており、その動向についても注意が必要です。今の試案のままですと世界に誇るわが国の医療制度である皆保険制度が崩壊する危険性が高いので、断固反対していかなければいけません。そのためには署名などを通しての皆様方のご協力が必要となると思いますので、その際はよろしくお願いいたします。 

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2001年11月

冷え性   
これからの季節、気温が下がるにつれ、寒さを感じることも増えていくことと思います。そこで今回は、ふだん「冷え性」とよばれている状態をテーマにとりあげてみたいと思います。

 みなさんはどんな時に「冷え」を感じるでしょうか。同じ部屋、同じ場所にいても寒く感じる人もいれば、寒く感じない人もいるという経験はないでしょうか。このように「冷え」の感じ方は人それぞれです。ですから「冷え性」と呼ばれる状態も、何度以下だから冷え性だ、というものではなく、本人が寒い、冷える、と感じていればそれは「冷え性」と捉えることができるのです。
 では、「冷え」を感じるとき、からだの中ではどんなことがおこっているのでしょうか。人が寒さを感じたとき、誰でもからだの中では血管の収縮がおきています。しかし、「冷え性」といわれる人たちはからだのどこかで血液の流れが滞っており、スムーズに血液が流れておらず、それが「冷え」を感じさせるのです。つまり、「冷え性」は血行不良をわたしたちに伝えてくれているのです。
 しかし、血行不良にもさまざまな原因が考えられており、それによって「冷え」のタイプも変わってくると考えられます。そのいくつかをあげてみましょう。

1. 毛細血管収縮
寒い冬が辛いという場合。これは「冷え性」でない人でも感じる感覚です。熱を逃がさないように毛細血管が収縮し、それによって「冷え」を感じます。

2. 低血圧
朝起きたときが辛いという場合。寝ているときは比較的血管は拡張していますが、血液を送る勢いがないのでなかなか手足の 先の毛細血管まで血液が行き届きません。そのため、特に朝「冷え」を感じます。

3. 貧血
全身が冷える場合。各器官に送られる酸素濃度が低いため、細胞での栄養の燃焼が不完全になってしまい、全身をうまくあたためられない状態です。

4. 筋肉不足
運動をしなくなってから「冷え」を感じるようになった場合。抹消の血液が心臓に送り戻される力が弱くなってしまったため、十分に血液を送れていない状態です。

5. 自律神経の乱れ
手足の先がいつも冷たいという不快感がストレスとなり、自律神経の働きを乱れさせてしまいます。その結果、血行不良を慢性化させるという悪循環が生じてきます。

冷え性対策】 
筋力をつけたり、食事に気をつかったりするなどいくつかの対策が考えられますが、今回は次のことをあげてみます。今年の冬は冷え性対策で暖かい冬を過ごしましょう。

<足浴>
手足や腰が冷えて寝付きのわるい方は、寝る前に足浴をしてみましょう。

1. 深めの洗面器かバケツに38℃くらいの少しぬるめのお湯を入れ、両足の足首までつかります。
2. 両足がつかったら、お湯を少しずつ注ぎ、42~43度くらいまで上げます。お湯が冷めてきたらまたお湯を注ぎ足していき、約15分つかります。このとき、注ぐお湯で火傷しないように気をつけましょう。
3. 15分たったら、丁寧に足を拭いて寝ましょう。

<靴下、下着の工夫>
 厚手の靴下や下着も効果的です。ただし、からだを締めつけないものを着用しましょう。 また、夜靴下を履いて寝るのは、足裏の体温調節機能を妨げてしまいます。温まった足裏は体温調節のために発汗します。このとき靴下などで足裏を覆ってしまうと発汗による体温調節がうまくいきません。また汗でしめった靴下が熱を奪ってしまい、逆に足が冷えてしまうことになりかねません。

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2001年11月

鉄欠乏性貧血    
鉄欠乏性貧血の原因は、月経、妊娠、胃腸機能低下など、さまざま。年代別に原因と貧血対策の改善のポイントをしっかりおさえるようにしましょう。

<高齢者>
 高齢者では、胃の粘膜が萎縮して、鉄の吸収が悪くなります。また、動物性食品を好まなくなったり、調理や買い物が十分に出来なくなり、偏った食事になりがちです。鉄の吸収をよくする食品の組み合わせを考えて、市販のお惣菜を利用するなど、バランスの良い食事をとるようにしましょう。

<妊産婦>
 妊娠すると母体の血液量が増え、造血機能がフル回転しますが、造血に必要なタンパク質、鉄、ビタミンなどの栄養素が不足気味になると貧血を引き起こすことになります。妊婦の貧血は、流産・早産・妊娠中毒症の原因や胎児にも影響が出てくることも。そこで、造血性の高い動物性食品をたくさんとるなど、食事の工夫をしましょう。

<成人女性>
 成人女性では、全体の約5~10%の人が貧血、20~25%の人が、潜在性鉄欠乏の状態と言われています。ダイエットしたり、外食ばかりの偏った食事は、貧血を助長するもと。1日20種類以上の食品からバランスよく栄養をとるように心がけましょう。

<思春期>
 女子の場合、思春期は成長と月経の開始により鉄分の需要が増え、鉄欠乏性貧血になりやすい時期。さらに、美容のためのダイエットや偏食が、貧血の原因になることも。この時期、貧血を予防・改善するには、タンパク質、ビタミン、ミネラルを十分にとり、バランスの良い食事を心がけて、鉄分不足を解消することが大切です。
 

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