2002年7月

 痴呆について 3    
前回、前々回に引き続き、痴呆についてのお話をしたいと思います。
今回は、痴呆になってしまった場合の対処についてです。

【コミュニケーションについて】 
 こちらから話しかけて思いのまま語ってもらい、それに耳を傾けて受け止め、訴えには逆らわず、間違いは許容する態度で、その心を知ることが大切です。仲間になれたという親近感と安堵感が生まれるような「なじみの人間関係」を作るように心がけましょう。この関係が上手に築けるかが介護の鍵を握ります。

【食事について】 
 好みに合ったバランスの良い食事を規則正しく取れるような援助が必要です。柔らかく調理したり、細かく刻むなどの工夫をしましょう。食事をこぼしたり、時間がかかっても、叱ったりせずに見守りましょう。食事の時以外に、1日1000cc~1200ccを目安に水分を摂ってもらうようにしましょう。

【排泄について】 
 排泄の失敗は本人の自尊心を失わせてしまします。老人の尊厳を守るためにも適切に対応できるようにしましょう。尿失禁や放尿が見られる時は、排尿パターンや排尿行動の特徴をよく知り、排尿時間に会わせたり排尿のサインをキャッチして、早めにトイレに誘導しましょう。トイレに誘う時は、命令口調は避け、さりげなく声をかけるようにしましょう。

【入浴について】
 入浴を嫌がる場合は強制してもうまくいきません。入浴を嫌う理由の一つには裸になることを警戒する心理が考えられます。いわゆる身包みはがされてしまうことへの抵抗です。どのようなタイミングで、どのように言葉をかけるか工夫が必要です。

【身だしなみについて】 
 身だしなみに気を配ることで生活のリズムを整えたり、生活に張りが出てくるものです。朝は洗面、歯磨き、ひげ剃り、髪をとく、化粧をするなどして、服も寝巻きから着慣れた好みの服に着替えてもらい、身だしなみの基本を守りましょう。

【活動について】 
 痴呆がはじまると、新しいことを覚えるのは難しくなりますが、若い頃からやっていた仕事や趣味などは、多少不完全でも適切な援助があればできます。日常生活の中でも役割をもってもらうようにし、得意なことを行ない、それが評価されるような場を作りましょう。毎日行なっていることでも間違えたり、失敗したりしますが、叱ったり指導してはいけません。危険なことでなければ「良い方法ですね」と支持し、「こんな方法はどうでしょう?」と正しい方法をやって見せます。そうすることで、正しい方法を思い出して行動することができます。

【睡眠について】
 高齢者の睡眠は、一般に寝つきが悪くなったり断続的に浅く、早朝覚醒などの特徴があります。痴呆老人では、睡眠・覚醒のリズムが乱れ、昼夜逆転やせん妄を起こす場合も多いものです。睡眠を阻害する要因のひとつとして、日中の運動不足があります。楽しみながらできる運動や遊び、家事などを行なってもらい、適度の疲労感が感じられるようにしましょう。

【環境について】
 引越しや介護者の変更など、環境の変化はできるだけ避けるようにしましょう。もし、必要な場合も徐々に変えていくようにします。例えば、居室を帰る場合などは、度々そこへ連れて行き、なじみの場所となってから移ってもらうようにするなどです。

【こんな時どうする?】
 ・「お金がなくなった」
 痴呆の方は疑い深くなる傾向があり、大切なものをよく隠します。そして、隠したことを忘れてこのような訴えをするのです。
こんな時は叱らずに優しく声をかけて一緒に探すようにし、なくしたものを自分自身見つけられるように配慮しましょう。

 ・「まだ食べてない」
 食事をしたばかりなのに「ご飯はまだ?」と言うこともよくあります。そして、しまいには「私を餓死させる気だ」と言い出すこともあります。こんな時は「さっき食べたでしょう」と説得しても無駄です。食器をすぐに片付けずに置いておく、昆布のように噛んでもすぐになくならないものを口にしてもらうなどの対処をするのが良いでしょう。

 ・「家に帰る」
 自分の家にいるのに、夕方になると「家に帰る」と言って荷物をまとめ出すことがあります。こんな時は「もう遅いから、今日は泊まって明日にしたら?」と声をかけたり、時には一緒に外に出て歩くことも必要です。

 自分が周りから尊重されていると感じられると精神的にも安定し、自分の力を十分に発揮できるようになります。痴呆老人の現在の姿だけでなく、今まで歩んできた人生の奇跡にも目を向けることが大切です。欠点ばかりに目を向けず、残された健康な部分を支えられるようにしましょう。
 可能な限り介護の役割を分担し、介護者を孤立させない配慮をしましょう。完全主義はやめて、介護をオープンにし、多くの人の協力を得るようにしましょう。  

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