先月7日、アルツハイマー型認知症の病理に作用する唯一の治療薬として、アデュカヌマブが米国食品医薬品局により承認されたことはご存知でしょうか。それまでアルツハイマー型認知症への治療薬は根本的な治療を行うものは承認されておらず、薬で症状の進行を遅らせるという治療が行われてきました。また、アルツハイマー型認知症の新薬がアメリカで承認されたのは18年ぶりであり、認知症患者やその家族にとって、とても嬉しいニュースとなりました。しかし、日本では現時点では未承認の為、私たちがアデュカヌマブを使用できるようになるには、まだ時間がかかってしまいそうです。
厚生労働省によると、2015年1月の時点で日本の認知症患者数は約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人と推計されています。また、2025年には約700万人、64歳以上の約5人に1人を占めることになるのではないかと言われています。
認知症の方に対して、一緒に過ごす時間の長い人ほどストレスを強く感じてしまうことが多くあります。病気のせいとわかっていても酷くイライラしてしまったり疲弊してしまったりするかと思います。家族が認知症を受け入れるまでに4つの心理ステップがあります。
1.戸惑い、否定
2.混乱、怒り、拒絶
3.あきらめる、割り切り
4.受容
はじめは家族が認知症になったことに戸惑い、それを否定したいと思ってしまいます。そのうちに症状が強くなってくると混乱し、認知症患者に対して怒りを抱くことが多くあります。時間はかかりますが、「認知症だから仕方ない」と次第に諦めや割り切る気持ちが現れ、徐々に受容できるよう になっていきます。
認知症の方と接する場合、どのようにコミュニケーションをとったら良いのか、不安に感じてしまうことも多いと思います。
○否定したり叱ったりしない
認知症が進むと、それまで出来ていたことができなくなったり、記憶力が低下してほんの少し前のこともわすれてしまったりすることが出てきます。事実と違うことを主張することもあるかもしれませんが、それは本人にとっては事実なのです。それをこちらが否定し続けてしまうと、認知症の方を傷つけてしまいます。ただ否定するだけではなく、話を聞いてあげるようにしましょう。
〇褒める、感謝する、相槌をうつ
認知症の方と会話するときは、褒める、感謝する、相槌をうつの3つを心がけましょう。
〇放置するなど、ストレスを与えることはしない
ストレスを与えられたり、放置されたりして不満が溜まってしまうと、大きな声を出す、暴力的になる等の行動がおこることがあります。
〇かけがえのない存在であることを認識してもらう
それまでできていたことができなくなることは認知症の方にとっても、とても不安なことです。認知症になっても家族や周りの人の役に立つ存在であり、家事等で貢献していることを感謝とともに伝えるようにすると良いです。
認知症の有無に問わず、加齢により聴力が衰えていきます。そのため、声をかけるときには、「耳元で大きく、ゆっくり話す」「目線を合わせて、目を見て話す」「可能な限り日常の障害を取り除く」ということに気を付けて声をかけるようにしましょう。
では、実際の場面ではどのように対処したら良いのでしょうか。
〇「財布を盗られた」等の物盗られ妄想
「誰も盗ってないよ」と事実を伝えても、疑いの気持ちが増すだけです。本人の怒りや不安な気持ちを共有しながら、一緒に探すようにしましょう。また、家族が見つけて手渡すと、「やっぱり隠してた」と思われてしまうこともあります。なるべく本人が自分で見つけることのできるように手助けをしてあげると良いです。また、見つかった時には一緒に喜ぶようにしましょう。
〇「あなたは誰?」等の人物誤認
本人の両親や友人等、特定の人物と間違われた場合は、その人物になりきって返事をすると安心してもらえます。見ず知らずの他人と間違われたときには、あまり刺激をしないようにいったん目の前から去って落ち着くのを待ってみると良いです。
〇「帰り道がわからない」等の徘徊
出かけようとしているのに気が付いた時は、できれば一緒にでけて、気が治まったら自宅に戻ると良いですが、実際には気づいたらいなくなっていたということも多いです。認知症徘徊感知機器やGPSを利用したり、連絡先を書いた紙をお守りに入れて身に着けてもらう等、一人で家を出てしまっても周囲の人が見つけてもらえるように予め対策をしておきましょう。
〇「今日は何月何日?」等の見当識障害
見やすい場所に日付表示がついた時計を置き、一緒に見ながら確認するようにすると良いです。
〇「ご飯まだ?」等の物忘れ
「さっき食べたよ」と伝えても納得してもらえません。認知症の方に合わせて、「用意してくるね」と伝え、少し時間を空けることで、食事を欲しがっていたことを忘れるのを待つのが良いでしょう。
〇失禁や便いじり等の問題行動
厳しく叱っても本人が傷つくだけで、問題行動がなくなることはありません。失禁や便いじり等の問題行動が見られても、「濡れたから着替えようか」等、穏やかに対応してあげるようにしましょう。
〇攻撃的になり暴言や暴力をする等の性格変化
認知症の方が攻撃的になると、家族等の周囲の人たちもヒートアップしてしまうことがあります。一緒にヒートアップせず、落ち着いて怒りの原因を探し共感してあげるようにしましょう。どうしても〇「誰かに狙われている」等の幻覚
誰もいないのに何かがいると言うことはよくあります。「誰もいない」と否定してしまわずに、追い払う振りをしたり、一緒にその場を離れたりして、守ってあげようとする様子を見せてあげると良いです。
認知症により様々な症状が出現します。症状によっては服薬により改善されるものもあります。何か困っていることがあれば、主治医に相談してみてください。