習癖異常とは
癖とは、繰り返されることで身につき固定された行動のことであり、誰でも何らかの癖を持っているものです。大人の癖はその人の個性の一部に組み込まれていることがほとんどですが、子どもの癖は精神心理学的問題を表現していることがあり、注意が必要となる場合があります。「習慣的に身体をいじる動作」を総称して「神経症性習癖」と呼び、その種類は、指しゃぶりや爪噛みなどの身体をいじる習癖から、首振りやチックなどの身体の動作を伴う習癖、異食や過食、拒食などの食事の問題、排泄や睡眠の問題など多岐にわたります。
1)身体をいじる習癖(身体玩弄癖)
指しゃぶり 爪噛み 舌なめずり
鼻・耳ほじり 目こすり 咬む
ひっかく 性器いじり 抜毛
2)身体の動きを伴う習癖(運動性習癖)
律動性習癖(頭打ち、首振り、身体ゆすり)
常同的な自傷行為 チック
3)日常生活習慣に関する習癖
食事(異食、偏食、拒食、過食、反芻)
睡眠(夜驚、悪夢、夢中遊行)
排泄(遺尿、夜尿、遺糞)
言語(吃音、緘黙)
4)体質的要素の強い習癖
反復性腹痛 便秘 下痢
嘔吐 乗り物酔い 頭痛
立ちくらみ 咳そう 憤怒痙攣
5)その他
虚言 盗み 金銭持ち出し
徘徊 嗜癖
これらの習癖は、通常の発達過程で見られることもあり、必ずしも治療が必要なものではなく、経過観察で改善する場合もあります。しかし一方で、単なる癖として観察しても改善せず、さらに二次的な問題が起こってしまう場合もあります。子どもの困った癖は、本人のみならず周囲の親や教師などが気になり、戸惑う場合があります。そうした場合、まず医療機関へ相談することが望ましく、また著しく日常生活に支障をきたしている場合には、専門機関への受診が必要になります。
習癖異常の要因と治療
習癖異常は、子どもが何らかのストレスをかかえ、情緒不安定になっていることが要因のひとつと考えられています。そのため、子どものそれまでの養育環境や習癖を表出する状況、日頃の様子、親子関係などを詳細に吟味し、どのような心理が働いているかに気づくことが大切です。特に養育者の子育てのあり方や、性格傾向が大きく関与していると言われており、習癖を持続させたり悪化させてしまう可能性があります。例えば、完璧主義で几帳面な強迫傾向を持つ母親が、子どもに能力以上の完璧さを求めて養育した場合、習癖異常になりやすく、またそれを悪化させやすくしてしまう可能性があります。その一方、心理的要因のみでは説明できないことも多く、子ども自身の体質的要因もあると考えられています。生まれつき神経質で、何に対しても過敏で頑固な場合、習癖異常になりやすいと想定されています。このように、養育者の子育てのあり方と子どもの気質の両方が、習癖異常と関連すると考えられます。
習癖異常の治療としては、適切な診断から見立てる病態や予想される経過を説明して、本人や周囲の戸惑いや不安を軽減し、子どものストレスが見つかれば、それを解消したり吐き出す場を提供することが必要だと思われます。また、脳や神経などの疾患が見つかるのであれば、それぞれの専門科での精密検査や治療を進めていくことも必要だと思われます。
人は様々な癖を持っていますが、癖というものはなかなか自分の力だけで直すことが難しいものです。しかし、一般的にその癖を病気だと思い、病院で治療されるべきものと考えている人は少ないと思われます。治療するかどうかの選択として、どの程度日常生活に支障が出ているか、困難を感じているかという問題意識を一つの指標としてみてはいかがでしょうか。