2006年1月心理室より

説得
 さまざまな対人関係のネットワークの中で生活する私たちは、互いに影響を与えたり、影響を受けたりしています。今回は、他者に自分の考えを受け入れさせるはたらきかけとしての説得についてお話しましょう。       

 まず、説得のメカニズムについて考えてみましょう。説得によって、なぜ考え方が変わるのでしょうか。毎日、新聞をにぎわせている消費税、靖国公式参拝、臓器移植などのさまざまな問題に対して、私たちは、良いとか悪いとか、好きとか嫌いとか、賛成とか反対とかの考え方をもっています。また、その程度も大嫌いであったり、少し賛成であったり、さまざまです。これらの考え方を態度とよびます。どのような態度をもっているかが、それにかかわる行動に大きな影響を与えてくるのです。

 では、態度が変わるメカニズムを考えてみましょう。人は自分自身の内部に矛盾がないように努力します。したがって多くの場合、個人の意見や態度は相互の間で、また行動との間にも矛盾のない関係を保っています。例えば、献血の必要性を痛感している人は、自ら献血するだけでなく、他の人にも献血を勧めるでしょう。ところで、あなたが献血の必要性を切実に感じており、友人に献血をぜひにと勧めたところ、断られたとします。その時あなたはどう感じるでしょうか。やはり不愉快に思うでしょう。ではなぜ不愉快に思うのでしょうか。あなたの友人はあなたの態度や行動と一致しない態度や行動を示しました。このような状態を不協和とよびます。誰しもが自分の態度や行動は正しい、間違っていないと考えたいものです。したがって、自分の態度や行動に一致しない、すなわち不協和な態度や行動には不快を感じるのです。そして、態度の変化は不協和を低減して協和な状態を回復する過程で起こるのです。

ここで、説得を効果的にするためのテクニックをいくつかご紹介しましょう。

【フット・イン・ザ・ドアー・テクニック】
 このテクニックは、訪問販売のセールスマンがよく使う手口で、閉めようとするドアーにつま先を入れて、話だけでも聞いてくださいと懇願します。話だけならとセールスマンを玄関に入れるのですが、そのことが買う気を起こさせることになります。
 なかなか受け入れてもらえない大きな要請を受け入れてもらうようにするには、最初は小さな要請を求め、それが受け入れられてから、次にその大きな要請を求めるのがよいようです。それは、一度要請を受け入れると自分自身への態度が変化し、自分自身を、要請を受け入れやすい、信じること
には行動で示し、良いことには協力するタイプの人間だと考えるようになるからだと考えられます。

【ドアー・イン・ザ・フェイス・テクニック】
 このテクニックはフット・イン・ザ・ドアー・テクニックと逆の方法です。絶対に受け入れられそうもない大きな要請をすると、だれもが「お断り!」とドアーを目の前でバタンと閉めるところからきています。ところが大きな要請を断られた後、小さな要請をすると、その要請が受け入れられやすくなります。それは、大きな要請を断られた要請者がその後に小さな要請をしたことは、要請者は譲歩したと受け止められ、その譲歩へのお返しとして、相手は小さな要請を受け入れるようになるというわけです。

【ロー・ボール・テクニック】
 このテクニックは、最初は手の届きそうな低いボールを投げることからそうよばれています。あまり良いことではありませんが、アメリカで新車の販売によく使われるそうです。新車の価格を値引きして、客に買う決心をさせた後、値引きはできないといって価格を上げます。約束が違うので断ればいいのですが、客は価格が上がってもやはりその車を買おうとするのです。それは1度買う決心をしたことが大きな意味をもつからです。1度要請を受け入れさせたという点で、フット・イン・ザ・ドアー・テクニックと類似しています。

 このように説得にはさまざまなテクニックがあります。しかし、やはり自分の思いを相手に誠実に伝えようとする姿勢が何よりも大切なのかもしれません。また、このようなテクニックを多用する詐欺などもありますので、注意しなければいけません。

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