2004年9月

糖尿病
【糖尿病の合併症】

 糖尿病の合併症には、まず3大合併症というものがあります。それは下記の通りです。

1.糖尿病性網膜症
2.糖尿病性腎症
3.糖尿病性神経障害

 この他にも、脳梗塞、心筋梗塞、動脈硬化など糖尿病が引き起こす病気はたくさんあります。しかしどれにも一つの共通点があります。それは何だと思いますか?それは血液の流れが悪くなることと関係があるということです。糖尿病によって引き起こされる数々の病気は、結局は血液の流れが悪いことが原因なのです。今回は、糖尿病性網膜症についてお話ししていきます。

【糖尿病性網膜症とは】

 糖尿病性網膜症は、単純網膜症(初期)・前増殖網膜症(中期)・増殖網膜症(後期)の順に進行していきます。

(1)初 期
 網膜症の最も初期の段階では、網膜の毛細血管が障害を受けます。この段階を単純網膜症といい、その典型的な症状として、点状出血(小さな出血)、白斑(血液中の蛋白質や脂肪が弱くなった毛細血管から漏れてきて、網膜に染み込んで沈着し乾いたもの)、毛細血管瘤(血管の弱くなった部分が膨れてきて、そこに血液が溜まった状態)の3つがあげられます。糖尿病性網膜症にみられる小さな点状出血は、食事療法、運動療法、薬物療法などによる血糖コントロールをしっかり行っていれば、自然に消えていくことが多いので、あまり心配することはありません。ただ出血と同時に、毛細血管瘤や白斑が生じることがあります。白斑は出血より広い範囲に広がる性質をもつので厄介です。この単純網膜症の段階であれば、手術などは行わなくても、血糖のコントロールをきちんと行えば多くの場合、症状が改善されます。

(2)中 期
 血糖値のコントロールが悪い状態が続くと、さらに症状が進み、前増殖網膜症という状態になります。この段階では、単純網膜症の症状に加えて、軟性白斑(白斑のうち輪郭がはっきりしないもの)、静脈の異常、網膜内細小血管異常などが現れます。この網膜内細小血管異常というのは、網膜の細小血管が拡張したり、血液の流れに異常が起こる症状です。

(3)後 期
 さらに症状が進むとぞ、増殖網膜症という状態になります。この段階では、本来なかった場所に新たに血管ができてきます。この血管は新生血管と呼ばれ、網膜の血管が詰まって血液が流れなくなり、その先の神経細胞が酸欠状態になった時、それを補うために新たに作り出される未熟な血管のことです。 この新生血管は非常にもろく、ちょっとした衝撃や血圧の上昇ですぐに破れて、出血を起こします。この出血が網膜内にとどまらず、網膜より前部のゼラチンのように軟らかい硝子体のほうにまで出てくると、出血が広い範囲に拡散します。このような硝子体出血の状態になると、入ってきた光が出血でさえぎられ、網膜の中心部である黄班部というところに届かなくなって、視力障害が起こります。さらに出血がひどくなれば、失明という状態になります。

●網膜剥離が起こることも‥‥‥
 網膜剥離とは、網膜がはがれる病気のことです。網膜がはがれると、その部分は光や色を感じる機能を失って、目が見えなくなってしまいます。新生血管からの出血の後には、しばしば増殖膜という瘢痕組織ができます。これは例えば皮膚を傷つけた時にできる傷痕やケロイドと同じようなものですが、この増殖膜は、収縮する性質があるので、収縮しながら網膜を引き剥がすことになります。これが糖尿病性の牽引性網膜剥離で、網膜がはがれる場所によっては、一晩のうちに目が見えなくなってしまうこともあります。

●糖尿病性網膜症の治療
  前増殖網膜症や、増殖網膜症の段階において、新生血管の発生を防止するために、レーザー光線を使った光凝固という治療を行います。この治療により、前増殖網膜症が増殖網膜症に進行するのを防ぐことができます。このレーザー治療は、現在行われている糖尿病性網膜症も治療法の中で最も効果的であると言われています。

【日常の生活で気をつけること】

  網膜症を進行させる要因には、血糖コントロールの不良状態の他に、発症してから何年になるかという罹病期間(病気にかかっている期間)が関係しています。罹病期間が長くなるに従って、網膜症の合併する率は高くなってきます。ですから、早い時期から血糖の管理をしっかりすることが
極めて重要です。  また、新生血管が出現した場合は、網膜での出血を非常に起こしやすくなるので、増殖網膜症と診断された患者さんは、一定の運動制限を行う必要があります。さらに、目の合併症に関しては、内科と眼科の連携が必要です。網膜症が起こってきた場合には、必ず両方の医師に自分の状態を知ってもらうようにしてください。

 糖尿病網膜症は、ある程度までは自覚症状もなく進行し、失明に至る危険もある恐ろしい病気です。糖尿病と診断されたら、眼科も受診して下さい。網膜症と診断されても、進行する前に適切な治療で阻止していきましょう。
 

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