適応障害は・・・「ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態」(ICD-10)のことです。つまり、ある特定の状況や出来事が、その人にとってとてもつらく耐えがたく感じられ、そのために気分や行動面に症状が現れるものです。ストレス因となるものは様々で、ある人はストレスに感じることがほかの人はそうでなかったりと、個人のストレスに対する感じ方や耐性も大きな影響を及ぼします たとえば憂うつな気分や不安感が強くなるため、涙もろくなったり、過剰に心配したり、神経が過敏になったりします。また、無断欠席や無謀な運転、喧嘩、物を壊すなどの行動面の症状がみられることもあります。ストレスとなる状況や出来事がはっきりしているので、その原因から離れると、症状は次第に改善します。でもストレス要因から離れられない、取り除けない状況では、症状が慢性化することもあります。そういった場合は、カウンセリングを通して、ストレスフルな状況に適応する力をつけることも、有効な治療法です。
診断基準・・・適応障害の診断には、以下の様な基準があります。
1.はっきりとした心理社会的ストレスに対する反応で、3ヶ月以内に発症する。
2.ストレスに対する正常で予測されるものよりも過剰な症状。
3.社会的または職業(学業)上の機能の障害。
4.不適応反応はストレスが解消されれば、6ヶ月以上は持続しない。
5.他の原因となる精神障害がない。
ただしストレスが慢性的に存在する場合は症状も慢性に経過します。また、適応障害と診断されても、5年後には40%以上の人がうつ病などの診断名に変更されています。
症状・・・適応障害の症状は、ストレスに対する正常な感情的反応の延長線上にあるものです。そのため、症状の内容はストレスの内容と、症状の経過はストレスの経過と密接な関係があります。症状はストレスと状況、本人の性格によって様々ですが、主に以下の4つの状態に分けられ、これらの何かが目立った状態、またはいくつかが混合した状態となって現われます。
不安症状を中心とする状態
不安、恐怖感、焦燥感などと、それに伴う動悸、吐き気などの身体症状
うつ症状を中心とする状態
憂うつ、喪失感、絶望感、涙もろさなど
問題行動を中心とする状態
勤務怠慢、過剰飲酒、ケンカ、無謀な運転などの年齢や社会的役割に不相応な行動
身体症状を中心とする状態
頭痛、倦怠感、腰背部痛、感冒様症状、腹痛など
子どもの場合は、指しゃぶりや赤ちゃん言葉などのいわゆる「赤ちゃん返り」がみられることもあります。
適応障害ではストレス因から離れると症状が改善することが多くみられます。たとえば仕事上の問題がストレス因となっている場合、勤務する日は憂うつで不安も強く、緊張して手が震えたり、めまいがしたり、汗をかいたりするかもしれませんが、休みの日には憂うつ気分も少し楽になったり、趣味を楽しむことができる場合もあります。
治療・・・
ストレス因の除去
たとえばストレス因が職場にあると考えられる場合には、休職や異動等の環境調節がこれにあたります。ストレス因が家族内にある時のように動かせないもの、離れるのが難しいものもあります。その場合には、ストレス因の除去だけではうまくいきませんので、その他の方法が必要になります。
本人の適応能力を高める
ストレス因に対して本人はどのように受け止めているかを考えていくと、その人の受け止め方にパターンがあることが多くみられます。このパターンに対してアプローチしていくのが認知行動療法と呼ばれるカウンセリング方法です。また現在抱えている問題と症状自体に焦点を当てて協同的に解決方法を見出していく問題解決療法もあります。どちらも基本的には治療を受ける人自身が主体的に取り組むことが大切です。
情緒面や行動面への介入
情緒面や行動面での症状に対しては、薬物療法という方法もあります。
不安や不眠などに対してはベンゾジアゼピン系の薬、うつ状態に対して抗うつ薬を使うこともあります。ただし適応障害の薬物療法は「症状に対して薬を使う」という対症療法になります。根本的な治療ではありません。つまり適応障害の治療は薬物療法だけではうまくいかないことが多いため、環境調整やカウンセリングが重要になっています。
適応障害は、まず原因となっているストレスを軽減することが大切です。気分転換をしたり、適度の休養をとったり、必要であれば転職や休学などの環境調節をすることで、日頃からストレスを溜めないような生活を心がけましょう。