震災時の心理と行動

 H30年6月18日に大阪府北部を震源とする、最大震度6弱の大きな地震が発生しました。また、東海地方でも、東海地震や南海トラフ大地震が30年以内にかなりの確率で発生すると言われています。日頃から地震への備えが大切ですが、災害が発生したとき、人はどのような心理状態に陥り、とっさにどんな行動を取るのでしょうか。
 イギリスの心理学者ジョン・リーチ氏の研究によると、災害の際にとる行動は、3つの行動パターンに分けることができます。
1.落ち着いて行動できる人(10~15%)
2.パニックに陥り、我を失って泣き叫ぶ人(15%以下)
3.呆然として何もできない状態になってしまう人(70~75%)
大多数の人が発災時にショック状態に陥り、呆然として何もできない状態に陥っていまします。これを「凍りつき症候群」と言います。突発的に災害や事故の直撃を受けたとき、脱出や避難できるチャンスが十分にあるにもかかわらず、避難が遅れて犠牲になる主な要因は、目の前で経験したことのない事象が急激に変化・展開することについていけず、脳の認知的情報処理機能のプロセスが混乱し、自己コントロールを失ってっしまうことになるもので、脳の空転状態のため、思考は停止または反対にとりとめなく拡散して焦点が定まらない状態になってしまいます。その結果、心、身体、行動が凍りついた状態になって凝結してしまいます。

避難を遅らせる心理状態
 大震災のような危機的状況に陥ると、以下のような行動心理が働きます。
1.正常性バイアス
2.愛他行動
3.同調バイアス
1.正常性バイアス・・・「自分は大丈夫」と考えてしまう
 社会心理学や災害心理学で用いられる用語で、人間が予期しない事態に対峙した時に、「ありえない」という先入観や偏見が働き、物事を正常の範囲内だと自動的に認識する心の働きのことです。何かが起こるたびに反応していると精神的に疲れてしまう為、人間にはそのようなストレスを回避するために自然と脳が働き、心の平安を守る作用が備わっています。しかし、この働きの度が過ぎてしまうと、本当に危険な場合でも、それを異常と認識せず、避難などの対応が遅れてしまうことになりかねません。
2.愛他行動・・・他人を助けたいという気持ち
 他者に利益をもたらす自発的な行動で、外的報酬を期待せずに、他者の利益や福祉の為に、自発的意図によって行う行動のことをいいます。特に災害時には、危険な状況にある人を助けようとする心理が強くなります。「今この人を助けないと、この人は死んでしまうかもしれない」と思うと、自分の身の危険を考えなくなってしまい、助けるという行動に集中してしまいます。実際に、東日本大震災では、愛他行動によって津波に飲まれ、命を落とした犠牲者がたくさんいたそうです。
3.同調バイアス・・・周りに合わせようとする心理
 他人と違う行動をとっていると、間違ったことをしているのではないかと不安になることがあります。そこで、周りの人と同じ行動をとることで安心を得ようとします。このような心理状態が同調バイアスです。東日本大震災でも、「避難していない人が大勢いるから、自分も非難しなくて大丈夫だ」と思い、津波にのまれた人も多くいたそうです。

 このような心理状況があるということを知っておくことも、災害時の避難に役立つのではないでしょうか。また、災害時の避難の対策として、避難3原則というものがあります。
1.想定にとらわれるな
2.その状況下において最善を尽くせ
3.率先避難者たれ
 率先避難者とは、身近に危険の兆しが迫っているとき、あるいは危険情報に接したときに、その危険をイメージし、「自ら率先して危険を避ける行動を起こす人」、そして、その行動によって「周囲の人にも同様の行動を促し、危険回避行動を起こさせる人」と言います。自らが率先避難者となることで、自分自身の安全を守り、同時に周囲の人を危険から逃れさせることが出来ます。
 最初に述べたように、この地方でもいつ大地震が起きてもおかしくない状態です。震災に向けて物理的な備えはもちろんですが、今回の大阪の自信を機に、自分は震災が起きた時にはどんな心理状況になり、どんな行動をとるか考え、もしもの時に想定にとらわれずに自らが率先避難者になれるように心がけてみてはいかがでしょうか。

カテゴリー: 201807, 心理室より パーマリンク