心理室より PTSD 2
今回も前回に引き続き心的外傷後ストレス障害(PTSD)についてお話しします。
トラウマ体験が原因で発病すると言われるこの病気は、単に不安であるとか鬱であるというものとは異なり、一連の特有の症状があります。
PTSDについて公式なマニュアルでは次のように述べています。この疾患の基本像は、通常の人間の体験(単なる死別や慢性疾患、ビジネスの失敗、婚姻上の摩擦のような通常的な体験)からほど遠い、心理的に抑うつされるような出来事に引き続いて、特徴的な症状がある。これらの症状を生み出すストレッサー(ストレスの原因)はほとんど全ての人に著しい苦痛を与えるものであり、それを体験すると通常強烈な不安や恐怖、無力感が生ずる。
●PTSD特有の症状●
【トラウマを何度も侵入的に再体験する】
PTSDでもっとも顕著な症状は、本人は思い出したくないのに何度もトラウマを再体験することです。
・“過去のことだし、何度考えてもどうにもならない”と分かっていても、しつこく何度も何度も繰り返し意識にのぼり、考えたくないのに当時の出来事を思い出してしまう →それが、日中だけではなく寝ているときも思い出され悪夢となります
・トラウマを思い出す刺激に触れると、それが今まさに起こっているような錯覚を起こし、全てが洪水のように押し寄せてくる
・かつて経験した、トラウマとなった出来事の記念日、例えば終戦記念日など、そのトラウマを象徴する、あるいは似たような出来事に遭遇すると強烈な心理的苦痛を感じる
【トラウマを思い起こさせる刺激を避ける】
トラウマ体験をする前にはなかった反応性麻痺(無感覚)が見られます。
・考え方や記憶、意識状態だけではなく明確な目標や行動も狭めてしまい、安全を作り出そうとし、恐怖をコントロールするためにその生活さえも狭めてしまう
・トラウマを努めて思い出さないようにその刺激から遠ざかる(例えば、事故に遭った人がその事故現場に行かないように迂回しようと努める)
・トラウマ体験の重要な局面を思い出すことができない(例えば、阪神淡路大震災の被害者がどうやって崩壊した家屋から避難所にたどり着いたか思い出せない)
・学校や会社という社会的な活動や人間関係から引きこもったり、将来プランが無くなったりする
・喜怒哀楽といった感情が乏しくなる
・みんなとは違う世界に住んでいるような感じがあり、疎遠感や孤立感がある
【自律神経の興奮や過覚醒の症状がある】
“逃げるか戦うか”といったような危険な状況にさらされている場合、自分の身を守るため神経を興奮させておく必要があり、危険時には適応的なこの状態が継続し、安全になったときは、それが興奮や過覚醒という不適応な状態になってしまいます。(例えば、戦時中の兵士が再来する危険に備えて、周囲の刺激に対し敏感になる。それは危険な状況下にあるときは適応的ではあるが、安心できる生活に戻ったときには不眠などの不適応な状態になる)
・小さな音にも過剰にビックリする
・物事に集中できない
・眠れなくなったり、寝付きが悪くなったり、連続して眠れなくなったりする
ベトナム戦争で極限を超える悲惨な体験をした兵隊の精神的後遺症が問題になり、トラウマという言葉が、戦場体験のことを指すものとして使われるようになりました。後に、同じような症状が性犯罪の被害者や自然災害の被災者にも現れることが分かり、PTSDという病名が作られました。最近では心の傷やストレスをもトラウマとよぶ傾向があります。
PTSDの原因は心の領域、精神的な領域の出来事ですが、その結果として脳内にはっきりとした変化が現れることが分かってきています。トラウマとなる体験を経験した人達には、体験したことの話に耳を傾け、実際的なサポートを提供し、不安を和らげてくれる他者が必要となります。