2011年11月

妊娠・出産のメンタルヘルス
 みなさん、マタニティマークをご存知でしょうか。妊産婦が交通機関等を利用する際に身につけ、周囲が妊産婦への配慮を示しやすくするもので、特にお腹の大きさが目立たない妊娠初期の配慮を促すことを目的に利用が始まったものです。妊娠は女性の心と体に大きな変化をもたらし、その家族の価値観やライフスタイルも変化させたりしますが、「妊娠は病気じゃないんだから」「私はそんなことはなかった」という言葉が聞かれるように、妊娠がもたらす心身の変化への理解は十分ではありません。
 今回は妊娠・出産にまつわるメンタルヘルスについて考えてみたいと思います。

 
 ◆妊娠中◆
 
妊娠中にうつ病が発症する頻度  4%~29%(5人に1人)
抑うつ症状が強くなりやすい人  うつ病の既往がある、初めての妊娠・出産である、妊娠中絶の経験がある、夫からのサポートが得られていない
特徴  身体的な症状として訴える(つわり、寝苦しさ)

あまり心の問題としてとしてケアされることはないようですが、実際は妊娠中の精神状態の不安定さが一番つらかったと振り返る母親が多いことも事実です。

 ◆出産後◆
||| マタニティーブルーズ ||| (女性が出産後の体や役割の変化に適応するための正常な反応)
  
発症時期  出産後3日~14日以内
経過  数時間から数日間持続し、自然に消失
症状  精神面:抑うつ気分、気分の不安定、涙もろさ、不安、焦燥感(ソワソワ感)困惑
身体面:頭痛、疲労感など
特徴  通常の抑うつに比べて身体的な抑うつ症状が強い
出現頻度  出産した母親の4%~50%(2人に1人の割合)

||| 産後精神病 |||
 
発症時期  出産後2週間以内
経過  薬物療法によって比較的軽快することが多い
症状  不眠、焦燥感、抑うつなどの前兆の出現。その後急激に幻覚、妄想などの精神
症状、強い混乱、一時的な記憶や意識の障害
出現頻度  10000人に3人

||| 産後うつ病 |||
 
発症時期  出産後数週間~数カ月
経過  中等度から重度のうつ病には抗うつ薬が有効
数カ月で軽快。1年以内に2/3が回復。2年目には90%が回復
症状  中心症状:気分の落ち込み、興味や喜びを感じにくくなる  その他:食欲の減退もしくは増加、不眠または睡眠過多、ソワソワ感 必要以上に自分を責める、全く価値がないように感じる
特徴  赤ちゃんの健康や母乳の心配、母親としての自信のなさや過度の罪悪感として訴えることが多い
出現頻度  出産した女性の10%~15%(10人に1.5人の割合)
リスク要因  妊娠期のストレス、社会的なサポートの有無、うつ病の既往、夫婦関係

 <<サポート>>
 平成19年より「こんにちは赤ちゃん事業」という生後4ヶ月にまでの乳児のいる家庭への保健師や助産師らによる訪問支援がはじまりました。さまざまな不安や悩みの相談、子育て支援に関する情報提供、親子の心身の状況や養育環境等の把握・助言などを行うものです。
支援が必要な家庭に対しては適切なサービス提供につなげることが産後うつ病の予防や、親子関係への早期支援につながると期待されています。

 <<家族ができること>>
 夫をはじめ周囲の人からのサポートが産後うつ病の予防につながります。妊娠期におけるつわりへの無理解や家事育児への非協力的な態度がストレスを増大させることとなり、産後うつ病を発症させる要因となってしまいます。
 とくにつわりの程度は人によって様々で、決して気分の問題として片付けられるものではありません。「男性だからわからない」、「私はそんなにひどくなかった」「昔はそれでも家のことをやっていた」と突き放すのではなく、新しい命を守っている‘お母さん’がその辛さを乗り越えられるように手を差し伸べることが大切です。

 出産後は家族みんなで赤ちゃんを育てるという意識を持ち、‘お母さん’が一人で抱え込まないようにすることがポイントです。それでも不安が消えないときは保健所などの子育てに関する相談窓口で相談をしたり、お友達や子育てサロンなどでおしゃべりをしたり、思い切って保育所の一時保育を利用し‘お母さん’がリフレッシュすることも大切です。名古屋市では「名古屋のびのび子育てサポート事業」を行っていて、1時間から子どもを預かってもらうことも可能です。‘お母さん’自身も、つらいなと感じたら自分から助けを求めることを忘れないでくださいね。

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