2006年5月院長より

障害者自立支援法が施行され、一ヶ月が過ぎ、少し混乱が静まってきたようです。しかし、負担が増えたために、これまで受けてきたサービスが受けられなくなったとか、これからどうしていったらいいのか、などの不安を抱えた声が聞こえてきます。我々精神疾患に関わる医師は自立支援医療の診断書や意見書記載、障害区分認定審査会への参加等を通じて、皆様方を守る活動を日常診療に加えて行っております。お困りのことがございましたら、遠慮なくご相談ください。

 某県立病院の産婦人科医師が逮捕された件で、日本中の多くの医師から不当逮捕の声が上がり、逮捕された医師に対する支援活動が活発に行われていることはご存じでしょうか。癒着胎盤という稀でかつ救命困難な状況で、何とか赤ちゃんは助かりましたが、母親は残念ながら救命できませんでした。事故発生後一年近くたってから担当した医師が業務上過失致死と医師法違反で逮捕されたのです。ロボットとは違い、生きている人間はその構造や薬物への反応など、微妙に異なり、全く同一であることはまずありません。そのため全く同じ手順では手術は出来ませんし、注射や薬の投与にしても同じで、常に個体差等を意識しながら、試行錯誤を繰り返し、目の前の患者さんにとっての最善の方法を常に模索しながら日常の医療行為を行っているのです。このように本質的には不確実なものである医療行為に対し、結果責任を求めて業務上過失致死を適用することはきわめて不合理なことだと思います。もしこのようなことがちょくちょく行われるようになると、少しでも危険な医療行為は自然と医師が避けるようになりますので、助けられる命を助けようとしないなどという場面が生じてくるかも知れませんし、医学の進歩、技術の進歩は大幅に遅れ、その結果は国民皆の不利益となって返ってきます。現代の医療はまだ不確実な行為の積み重ねに過ぎないし、その中で、ほとんどの医師は各々の良心に従って最善の医療を提供しようとしていることを是非ご理解いただきたいと思います。

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