2011年3月

やる気
 最近、ニュースで若者の離職率について耳にすることがあります。最近の若者は嫌になったらすぐに仕事をやめてしまう、やる気のない若者が増えた、こういった声をよく聞きますが、それは果たして若者だけの問題なのでしょうか。仕事や勉強など、社会生活を営む上で、“やる気”は行動を起こさせるために重要なものであり、やる気を維持するということは、とても難しいことだと思います。
 では、やる気とはいったいどのようなものであり、やる気を上げるためにはどのような方法があるのでしょうか。

<やる気とは?>
 やる気は、心理学では“動機づけ”と言われます。英語では“モチベーション”といいますが、こちらの方が馴染みがあるかもしれません。動機づけ(motivation:モチベーション)とは、行動を発起させ、目標に向かって維持・調整する過程・機能のことをいいます。というと、少し小難しいように思えますが、たとえば、<お金持ちになりたい>という動機から、「昇給するために頑張って働く」という行動を起こす、と考えると分かりやすいかと思います。<一生懸命働きたい>と目標に向かって努力している人には、その意欲の源になっている理由が何かあるだろうと考えられ、反対に、仕事に対してやる気も目標も持てない人に対しては、意欲の源を示すことによって、もしかしたら行動を起こさせることができるかもしれません。
 動機づけには、大きく分けて2種類のものがあります。1つは、生命を維持し、種を保存するための生得的なものである“生理的動機づけ”と呼ばれるものです。お腹が空いたからごはんを食べる、疲れたから睡眠をとるなど、生命を維持するために生まれながらにして備わっているものです。もう1つは、人が社会生活を営む中で習得した“社会的動機づけ”と呼ばれるものです。有名になって注目を浴びたいからオーディションを受ける、自分の能力を高めたいから勉強をするなど、直接生命維持には関係ありませんが、それがないと健全な社会生活や精神状態を保つことが困難になるかもしれないものです。
 生理的動機づけは変化しようがないですが、社会的動機づけは変化の余地があります。「やる気が上がった」り「やる気が下がった」りするのは、社会的動機づけの方であり、やる気を上げるために操作出来る可能性もあるということです。

<やる気を高めるには?>
 では、どうすればやる気を高めることが出来るのでしょうか。動機づけを高める方法は主に2通りあると言われています。
 1つめは、賞与や報酬を与えて動機づけを高める“外発的動機づけ”というものです。外発的動機づけとは、例えばお小遣いが貰えるから勉強をする、給料が貰えるから仕事をする、など賞罰を使い分けて動機を高めるものです。外発的動機づけは短期的には有効ですが、このような動機では手っ取り早い方法を選ぶようになったり、チャレンジしなくなったり、人の見ていないところでサボるようになったりと長期的に考えると様々な問題点が出てきます。報酬を得ることが目的になり、いかにうまく、楽をして報酬を得られるか、ということを学習してしまい、それに終始してしまいがちなのです。
 これに対して、報酬が無くても、行動することで得られる楽しさや満足感によるものを、“内発的動機づけ”といいます。 行動する事そのものが目的で、そこから得られる達成感、充足感が報酬になります。楽しいから積極的に参加し、自発的に学習します。内面から湧き出る意欲という事です。子どもの知的好奇心は、まさに内発的動機づけそのものといえるでしょう。
 しかし、内発的動機づけは簡単に得られる物ではありません。そこで、取っ掛かりとして短期間で高い動機づけが得られる外発的動機づけを利用し、徐々に内発的動機づけに変化させていくことが、長期的に意欲が高い状態を維持するためには必要なのかもしれません。つまり、「最初はお金が欲しくて始めたバイトが、自分の成長に繋がるようで楽しく感じ始めてきた。だから続けていきたいし、頑張って働きたい」という動機づけの変化が、やる気を維持するために必要なのです。
 基本的には、内発的動機づけを重視すべきだと思いますが、外発的動機づけを一方的に悪いものと考えるべきではなく、両方をバランス良く、場や人にあわせて活用する事が大切であると考えられます。自分のやる気を上げるためには、自分にとって、外的なものか内的なもの、どちらがより良い報酬になるかという見極めが必要であり、それが得られる環境を探すことが重要なのかもしれません。

カテゴリー: 201103, 心理室より パーマリンク