認知症とは

1.認知症とは?
 脳は、私たちのほとんどあらゆる活動をコントロールしている司令塔です。それがうまく働かなければ、精神活動も身体活動もスムーズに運ばなくなります。
 認知症とは、いろいろな原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったためにさまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態を指します。また、認知症を引き起こす病気のうち、最も多いのは、脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく「変性疾患」と呼ばれる病気です。アルツハイマー型認知症、前頭・側頭型認知症、レビー小体型認知症などがこの「変性疾患」にあたります。続いて多いのが、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化などのために、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その結果その部分の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れてしまう脳血管性認知症です。

2.認知症の症状-中核症状と行動・心理症状
 脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状が記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能の低下など中核症状と呼ばれるものです。これらの中核症状のため周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。性格、環境、人間関係などさまざまな要因がからみ合って、うつ状態や妄想のような精神症状や、日常生活への適応を困難にする行動上の問題が起こってきます。
 認知症にはその原因となる病気によって多少の違いはありますが、様々な身体的な症状もでてきます。特に血管性認知症の一部では、早い時期から麻痺などの身体症状が合併することもあります。アルツハイマー型認知症でも、進行すると歩行が拙くなり、終末期まで進行すれば寝たきりになってしまう人も少なくありません。

○ 中核症状
1 記憶障害
 人間には、目や耳が捕らえた情報の中から、関心のあるものを一時的に捕らえておく器官(海馬)と、重要な情報を頭の中に長期に保存する「記憶の壺」が脳の中にあると考えてください。いったん「記憶の壺」に入れば、普段は思い出さなくても、必要なときに必要な情報を取りだすことができます。しかし、年をとると海馬の力が衰え、一度にたくさんの情報を持っていることが出来なくなり、「壺」に移すのに手間取るようになります。「壺」の中から必要な情報を探しだすことも、時折失敗します。もの覚えが悪くなったり、ど忘れが増えるのはこのためですが、それでも、繰り返しているうち、大事な情報は「壺」に納まります。ところが、認知症になると、病的に衰えてしまうため「壺」に納めることができなくなります。新しいことを記憶できずに、さきほど聞いたことさえ思い出せないのです。さらに、病気が進行すれば、「壺」が溶け始め、覚えていたはずの記憶も失われていきます。

2 見当識障害
 見当識障害は、記憶障害と並んで早くから現われる障害です。見当識(けんとうしき)とは、現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握することです。まず、時間や季節感の感覚が薄れることから、時間に関する見当識が薄らぐと、長時間待つとか、予定に合わせて準備することができなくなります。もう少し進むと、時間感覚だけでなく日付や季節等におよび、何回も今日は何日かと質問する、季節感のない服を着る、自分の年がわからないなどが起こります。
 人間関係の見当識障害はかなり進行してから生じてきます。過去に獲得した記憶を失うという症状まで進行すると、自分の年齢や人の生死に関する記憶がなくなり周囲の人との関係がわからなくなります。
3 理解・判断力の障害
 認知症になると、ものを考えることにも障害が起こります。考えるスピードが遅くなり、2つ以上の事が重なると上手く処理が出来なくなり、長い指示や複数の意味を持つ指示が理解出来なくなります。また、些細な変化やいつもと違う出来事で不安になったり、混乱しやすくなったりします。また、「倹約は大切」と言いながら高価な不要な買い物をしたり、自動販売機や自動改札、銀行のATM等が上手く使用できなくなるといった、目に見えないメカニズムが理解出来なくなります。

4 実行機能障害
 健康な人は頭の中で計画を立て、予想外の変化にも適切に判断や対応をしてスムーズに進めることができます。認知症になると計画を立てたり、判断や対応をしたりできなくなり、日常生活がうまく進まなくなります。

5 感情表現の変化
 認知症になるとその場の状況が読みづらくなります。
 通常、自分の感情を表現した場合の周囲のリアクションは想像がつきます。私たちが育ってきた文化や環境、周囲の個性を学習して記憶しているからです。しかし、認知症の人は、時として周囲の人が予測しない、思いがけない感情の反応を示します。それは認知症による記憶障害や、見当識障害、理解・判断の障害のため、周囲からの刺激や情報に対して正しい解釈ができなくなっているからです。

○ 行動・心理症状とその支援
 認知症の初期にうつ状態を示すことがありますが、原因には「もの忘れなど認知機能の低下を自覚し、将来を悲観してうつ状態になる」という考え方と、「元気や、やる気がでないこと自体が脳の細胞が死んでしまった結果である」という考え方があります。
 認知症の症状が出てくると、周囲が気づく前から、本人は漠然と気がついています。意欲や気力が減退したように見えるので、うつ病とよく間違えられます。周囲からだらしなくなったと思われることもあるようで、すべてが面倒で、以前はおもしろかったことでも、興味がわかないと感じる場合も多いようです。
 周囲の対応としては、本人に恥をかかせないようにすることが大事です。「できることをやってもらう」ことは必要ですが、できたはずのことができなくなるという経験をさせ、本人の自信をなくすという結果になったのでは逆効果です。自分の能力が低下してしまったことを再認識させるようなことはますます自信を失わせます。それとなく手助けをして成功体験に結びつけることができれば少しでも笑顔が戻るようになるでしょう。うつ状態にあるときには周囲からの「がんばれ」が負担になるので注意が必要です。

 その人がその人らしく生活出来るよう、またその様に周囲が支えていけるよう、お気軽にご相談いただければと思います。

出典:認知症サポーター養成講座標準教材

カテゴリー: 201311, 病気・治療, 精神保健福祉士より パーマリンク